
NOTE
2026/06/14 23:52
私たちが何気なく手に取るモノの背景には、どんな景色が広がっているでしょうか。
利便性と効率が最優先される現代において、モノづくりの在り方、そして「本当の豊かさ」とは何かを模索し、誕生したのがプロダクトブランド『SHIZENKOU』です。今回は、ブランドの背景にある思想と、私たちがプロダクトに込めた願いを紐解きます。
ブランド誕生の背景 ── ひとつのモノを愛する豊かさへ
私は長年、モノづくりの前線に身を置いてきました。ありがたいことに、海外生産による安価な量産家具の開発から、高価なラグジュアリーレザーブランドの商品企画まで、両極端な市場のモノづくりを経験する機会に恵まれました。
需要と供給で成り立つビジネスの世界では、利便性やアート性によって高価な価値が決まり、効率化や海外の低賃金労働によって驚くほど安価なモノが生まれます。価格帯によって価値提供の方法は様々ですが、だからこそ私は「作り手としてモノづくりで生み出すべき本当の豊かさとは一体何なのか」を深く考えるようになりました。
結論からお伝えすると、私は「安価な商品提供の先に、良い未来はない」と考えています。
もちろん、効率的に生産しコストを下げる努力は作り手の技量であり、敬意を払うべき点です。しかし、安価な資源と安価な人件費を前提としたモノづくりは、世界のどこかで誰かが大変な思いをすること(搾取)で成り立っています。生活の防衛として安価なものが求められる背景は痛いほど分かりますし、私自身もそれを選んでしまうことがあります。しかし、その「安さの追求」こそが、結果として社会の貧しさを生み出している根源ではないでしょうか。価格で競争しないモノづくりを行うことこそが、豊かな社会へ近づくために必要なプロセスだと確信しています。
「安く低品質なものを買い、1年で買い換える豊かさ」か。 「良いものを買い、10年、20年と大事に愛用し続ける豊かさ」か。
私は後者を提供できる作り手であり愛用者でありたい。
世界中でプラスチックのゴミ問題が叫ばれていますが、私たちは「利便性」と「安さ」という偽りの豊かさを得るために、地球環境や自分たちの健康を差し出してしまっています。その点、自然素材は極めてシンプルです。役目を終えて捨てれば土に還り、化学薬品による健康被害も起きません。 産業革命以降、私たちは利便性に偏りすぎました。今一度、それを認めて「自然の中で生きる」という原点に立ち返り、新しい豊かさを求めるべき時が来ているのではないでしょうか。
ブランド名「SHIZENKOU」に込めた願い ── 自然の恵みと、人の工(たくみ)
私がこれまでモノづくりに関わる中で、心から感動したものが2つあります。それが「自然」と「工(こう・工芸)」です。
自然素材は、人間の手では決して作り出せない複雑性と美しさを持っています。その土地の土・風・光・水といった環境に影響を受け、膨大な時間をかけて生み出される素材は、時に息をのむほど神秘的な表情を魅せてくれます。自然が生み出した素材をいただき、無駄なく活用し、その恵みに感謝する。日本に古くから根付くこの姿勢こそ、現代に最も必要なマインドではないでしょうか。
一方で「工(たくみ)」とは、単に美しく仕上げる工芸的な技術だけを指すのではありません。自然素材の魅力を最大限に引き出すための知恵であり、モノづくりにおいて「いかに効率的に、無駄なく生産するか」という工夫や知恵もまた、素晴らしい「工」であると考えます。
そして、もうひとつの意味が「自然光」です。 写真を撮るとき、作り込まれたスタジオの照明ではなく、そこにある「自然光」で撮られた1枚には、その世界そのものの美しさを引き立てる圧倒的な深みが宿ります。
自然素材と、人の工。それらが生み出すプロダクトが、使い手の暮らしの美しさをそっと引き立てる「自然光」のような存在になれば。そんな祈りを込めて、「SHIZENKOU」と名付けました。
プロダクトに宿る思想 ── そこに流れる「時間」を感じるということ
「自然は、時間を感じることができるから美しい」
私たちが手がける『kegei(褻藝)』シリーズをはじめとするアイテムは、自然素材を美しく仕立て、素材が持つ質感に触れることで「流れる時間そのものを楽しんでもらうため」のプロダクトです。
職人の手仕事や、自然現象をそのまま活かした独自の染色技法を取り入れることで、あらゆる自然の要素をプロダクトに落とし込んでいます。だからこそ、ある時は素材が持つありのままの形や不均一さを生かし、またある時は、気の遠くなるような手間を惜しまず、人の手で加工することに意味を見出すのです。効率化のために機械に委ねるのではなく、あえて「人の手」を通すからこそ、素材の持つ物語が使い手へと受け継がれます。
SHIZENKOUが目指す未来 ── 暮らしの中に、心地よい余白を届ける
現代を生きる人々は、あまりにも多くの情報とスピードに追われています。そんな日常を生きる皆さまに、SHIZENKOUのプロダクトを通して届けたい景色があります。
それは、朝の光の中で革の温かみに触れる瞬間であったり、使い込むことで深まっていく色艶にふと目を留める時間であったりといった、日常の中の「心地よい余白」です。
私たちが提案するのは、単なる「便利な道具」ではありません。手にするだけで心が落ち着き、自分が自然の一部であることを思い出させてくれるような、静かで豊かな日常の景色です。効率や価格の呪縛から一歩離れ、ひとつのモノと長く深く付き合う歓びを。SHIZENKOUはこれからも、現代のライフスタイルに寄り添う「自然工」を届けてまいります。
